東京高等裁判所 昭和42年(行コ)22号 判決
東京都新宿区百人町三丁目二八五番地
(旧旧商号株式会社半沢エレガンス)
(旧 商号カネボウエレガンス株式会社)
控訴人
吹田商事株式会社
右代表者清算人
井上高明
右訴訟代理人弁護士
中条政好
東京都中央区銀座東七丁目五番地
被控訴人
日本橋税務署長
高橋三郎
右指定代理人法務事務官
野田猛
同大蔵事務官
荒木慶幸
同大蔵事務官
細金英男
右当事者間の昭和四二年(行コ)第二二号法人税更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。被控訴人が昭和三二年一一月二七日付で控訴人の昭和二六年一〇月一日より昭和二七年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正、決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、次に附加するもののほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
(控訴人の主張)
かりに被控訴人主張のように、金二五〇万円の無記名定期預金が控訴会社のものであり、それが控訴会社の昭和二七年事業年度分法人税の確定申告から洩れていたとしても、右法人税の徴収権は控訴会社が右法人税の確定申告をした昭和二七年一一月二五日(控訴人は原審において昭和二七年一一月二九日と主張したが、これは真実に反しかつ錯誤にもとずくものであるから撒回する)の翌日から起算し五年後である昭和三二年一一月二五日の経過とともに消滅したから、その後の同月二七日付同月二九日の告知によつてなされた本件更正処分は違法である。
(被控訴人の主張)
国税徴収権の時効による消滅は本件更正処分を違法ならしめるものでないのみならず、右徴収権の消滅時効の期間は昭和三二年一一月二七日付の本件更正による税額の告知がなされた同月二九日の翌月から起算すべきものであつて、控訴人の右主張は理由がない。なお控訴会社の確定申告の日が昭和二七年一一月二九日であるとの控訴人の主張の撒回には異議がある。
(証拠関係)
控訴代理人は当審において甲第八号証の一ないし六、第八号証の七の一、二、(第九号証は欠番)、第一〇号証の一、第一〇号証の二、三の各一、二、第一〇号証の四、第一〇号証の五の一、二、第一〇号証の六、七、第一一号証の一ないし三、第一二号証の一、二、第一二号証の三の一、二を提出し、当審証人岩崎英祐、同大木林之助の各証言を援用し、後記乙号各証については認否をしない。
被控訴代理人は当審において乙第一五号証の一ないし三を提出し、甲第八号証の一ないし六、第一〇号証の一、第一〇号証の二、三各一、二、第一〇号証の四、第一〇号証の五の一、二、第一一号証の一ないし三の各成立を認めるが、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。
理由
当裁判所は当審における弁論および証拠調の結果を斟酌しさらに審究した結果、控訴人の本訴請求は原判決認容の限度を超えるその余は失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は原判決理由において説示するところと同一であるからこれを引用する。
控訴人はかりに金二五〇万円の無記名定期預金が控訴会社のものであり、それが控訴会社の昭和二七事業年度分法人税の確定申告から洩れていたとしても、右法人税の徴収権は時効により消滅しているから、その後になされた本件更正処分は違法であると主張するが、国税徴収権の時効による消滅はそれによつて単に国税の徴収ができなくなるというだけのことであり、それとは別個に賦課権の発動としてなされる更正処分になんら消長をきたすものではなく、これを違法ならしめるものでないのみならず、本件法人税の徴収権の消滅時効については当時の税法に特段の規定がなかつたから、国の公法上の債権として会計法第三〇条によるべきものであり、これによれば権利を行使しうべき時から起算すべきものであるから、結局その租税債権が確定した徴収権を行使しうる時からその消滅時効の期間が進行を開始するものと解すべきであり、しかして申告納税を立てまえとする法人税の場合これについて更正又は決定の要のないときはその申告により、税務当局により更正又は決定の処分がなされたときはその時に、租税債権が確定するのであるから、その翌日から右の消滅時効の期間を起算すべきものであり、本件についていえば昭和三二年一一月二七日付の本件更正による税額が控訴会社に告知された同月二九日の翌日から消滅時効の期間を起算すべきものである。従つてこれと異なる控訴人の右主張はその余の点について判断するまでもなく失当であり採用することができない。
よつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅沼武 裁判官 岡本元夫 裁判官 田畑常彦)